葬儀司会マニュアルは、必要か、否か

マニュアルの代わりの記号文字
マニュアルの代わりの記号文字

司会マニュアルを販売されている方を時折見かけます。そもそも私は、葬儀に司会なんて立場はないとの考えなんですが、専門のトレーニングを受けてこられたアナウンサー業界あたりの方からすれば、これ売りにしないと他に無いですもんね。

私も販売してみようかなぁ(笑)

葬儀司会マニュアル。どんな事を書いているのでしょう。そういった類を購入した事がないので、私にはわかりません。あっち、こっちに足を運び、実際に1時間、2時間と参列して見聞して勉強しましたから、そちらが私にとってのマニュアルです。

葬儀の仕事についた頃、当時は司会者と思っていましたので、その作業を覚えるため、皆さんがしているように先輩の喋っているのを録音して真似してみたのですが、どうもしっくりこない。平たく言うと、なんかダサい…

「おん導師様の御入堂でございますぅぅ」みたいな。おんどうし?って何? ごどうしではないのか? しかも、師という敬称がついているにもかかわらず、まだ様をつけるのはおかしいのでは? で、入堂って、ここは寺の内陣ではないのですが…?

御寺院様の御入場でございますぅぅ。ごじいんさま? 式衆とか、法中ではなく、寺そのものが入場してくるのか? 七堂伽藍と共に? そんなヤツおらんやろ… などなど、不可思議な言葉の使い方が気になって、気になって。

で、その方の言葉を文章に起こしてみました。すると、同じフレーズ、かぶる意味の言葉を結構、使っている。それと、日本語の発音の中で音の並びが悪いことに気がつきました。

言霊の力

日本には古くから「言霊」という概念があります。言葉には魂が宿るという。その一言一言に力があり、意味があるという。ふ〜んと思っていました。でも、言葉には力があるんですね。

開式前、式場の中は隣同士座った方々の、ひそひそとした話し声でざわついている。普通は、「只今より…」って感じで切り出して、「あ、何かしゃべってはる。お葬式、始まるんちゃう」と、強制的に沈めさせる感じがするのですが、違う切り出しをすると、臨場感と言いますか、その式場の空気を一変させる力が言葉にはあるんですね。そんな言葉の並びを一生懸命、研究して、何がベストなのかよく探究しました。

五十音の言葉を並べて記せば、小説になる。文学になる。もちろん漢字がなければ、橋なのか箸なのかのように意味が伝わりにくいのですが、読み聞かされる側からすれば、ひらがなが持つ音と同じです。朗読は、言葉の力だけです。

五十音の言葉を並べて、音階をつければ歌になる。そして、その歌は人の心を癒したり、勇気付けたりできるのです。歌手が歌う言葉をいちいち漢字に置き換えて聴いている方はいないと思います。

それだけ言葉には力があると思っています。

でも、私は、お葬式においては司会者ではなく進行係だと思っています。司会者は、結婚式で言うところの披露宴で仕切る立場だと思いますので、お葬式でのメインは故人と宗教者であり、寄り添うのは遺族と参列者なので、司会者として出しゃばる必要性は全くないと思っています。

葬儀の司会者
よく、葬儀の司会者っていいますが、今の私は司会者とは思いません。ここでの記事では、司会・司会者という言葉で表現しますが、葬儀の司会者はあくまでも「進行係」の位置付けだと思っています。

今、何が行われていて、私(参列者)はどうすればいいのか? 今、焼香に行っていいのか、どうなのか。ただ、それだけです。葬送儀礼に、司会者と言われる方の過剰な言葉は必要無いと思っています。

勘違いはハズい

ビデオで編集した故人の思い出を流す事も多く、故人を偲んでアレコレと話しても、それは、その場に集まった方が故人を知っており、故人の死去を悲しんでいる気持ちがその場にあるから効果的なだけであって、決してあなたの言葉に心を震わせている訳ではないのです。

ナレーションに感動した。という事をよく聞きますが、ナレーションではなく、その言葉の持つ力が故人を思う気持ちと増幅して心に響くのではないでしょうか。

実際に話した内容を文章にして起こしてみても、その時の遺族・親族・故人を知る関係者以外の、全くの他人が見たところでそんなに感動するものでも無い。

素晴らしい言葉、文章の羅列であっても、それは、よくある葬儀屋さんのあるある辞典みたいなものであって、ただ、司会者というカテゴリーの仕事に酔いしれているだけです。「人より上手く話したい」そこだけ技術を磨いても仕方がなのです。なぜなら葬儀屋さんだからです。そこは葬儀という仕事の根っこにあるものではないのです。

もっと大切な事は

感動を与える事は、司会業務ではなく、そのサービス、ホスピタリティにあると常々思っていましたから、上手にしゃべれた事を評価されても、それは一時の余韻であって、感動ではないと思います。

実際、司会者が話している内容なんて、細かなところまで聞いていないと思います。話している言葉のリズム、音のつながりを聞いているだけであって、一瞬、頭に残るフレーズがあるだけだと思います。

いわば歌と同じで、その歌詞を一語一句追いながら聞いている訳でもないのと同じです。葬儀における司会としては、噛むことなく、間違うことなく話しているその言葉の流れを感じているだけですから、詰まった瞬間、それは心地よい音の流れからノイズに変化するだけです。

別に、司会マニュアルを販売している方を批判するつもりはありませんけど、文章の内容は
大切だとは思いますが、ただ、それだけではないと経験上思っています。

言葉の持つ音の流れが大切なだけで、テクニックはあるでしょうがそれは意図して作れるものでもないし、すばらしい原稿を台本にして言葉にしたところで、話す方の心がどうあるかに
よって結果が変わるものですから、

私の経験、経歴でも一冊ぐらいは司会マニュアルを書き上げる事ができると思いますが、そんな物にお金を出して頂くほど大したものではないと思っています。同じ内容を別の人間が話したところで言霊が真価を発揮するとは思いませんから、どうぞどうぞと原稿は皆に差し上げていましたぐらいですから。

同じ「あ」と声に出しても、話す人の心の色によって力が違うと思っています。

言葉の力を活かすのは人と話す時です。

最近は、ナレーション集を販売している有料メルマガなんかもありますし、マニュアルを
冊子にして販売している方もいます。おそらく、この方々も最初に何か手本となるものがあったと思いますし、あるいは、十分な物が無かったから、今度はご自身で手を差し伸べようとされているのかも知れない。

最初にお手本とするには、奇妙な、大阪弁バリバリの方を真似る必要はないと思いますし、
おかしな癖がつく事を思えば、上手な経験豊かな方の雛形を真似るのもアリとは思いますが、やはり、自分で学んで、経験して、その中で揉まれてきた自分の言葉で話すのが、一番力が
強いのではないかと思うのです。

ただし、この力を持つ言葉を活かすのは、長々と話すナレーションではなく、通夜が始まる前、葬儀・告別式が始まる前に行う、いわゆる「式説」の時です。ここだけは、集う方々の気持ちを司る事ができる瞬間ですから、私は司会者と思ってもいいと考えています。

なぜなら、あなたの葬儀に対する考え方、思いが唯一表現できる場面だからです。その意味では、お決まり通りの説明ではなく、今から私達は何を行うのか、そしてその儀式の意義は、それを担当させて頂く自分の葬儀に対する姿勢を、全体の流れの説明も含めた中、短時間で表現しなければならない。

そして故人の死を活かすために、そこから担当者も含めて私たちは何を学ばせて頂くのか、何を感じ取って心に残していただけるかが、あなたにかかっていると思っています。

求められる能力と気持ち

これは、葬儀の相談、見積りを行う時にも大切な事です。商品説明と販売単価の説明に終始し、総額を出す。そんな事で、喪家はあなたを信用する訳がない。自分たちではどうする事も出来ないから、仕方なく葬儀が終了するまで付き合ってくださる関係にしかない距離です。

なぜ葬儀にはこれが必要なのか、なぜお寺さんは来るのか、参列者の心理、親族の意識、喪主として葬儀を行う意義をご理解いただく努力のために、自分が学び、経験してきた上に、相手を想う優しさに包まれた言葉でなければ、真摯に葬儀に向き合う自分の言葉でなければ、本当の意味では納得してくれません。

その方の死を通じて、喪家も担当者も学ばせていただいている気持ちがなければ葬儀の意味がないと思っています。

葬儀屋さんに勤務しだして、自分で進行を担当するようになると一度はぶつかる壁です。下手くそよりは上手に、流暢に話せる方がベストだとは思いますが、自分に酔いしれる事は避けた方が無難ではないかと思います。

自分が思っている事の範疇しか相手には伝わりません。自分が経験した事の事実しか、言葉に力は宿りません。自分の説明した事柄を相手が理解できない、誤解を招く、これらはあなたが六分なり八分しか理解していないから起きる現象であって、相手が悪い訳ではない。

真摯に葬儀に向き合い、司会者と呼ばれる事に満足するのではなく、恥ずかしいと思える自分がそこにいたら、きっと話す内容にも変化があると思いますし、言葉に力が付いてくると思います。

全てを包み込み、思いやる優しさを根っこに持ち、労をいとわない言動ができる担当者になっていただきたいと願っています。

その時、あなたはきっとこの内容に理解をしてくださると思いますし、葬儀司会マニュアルなんて不要だと思うでしょう。あなたの生き様、言動が、次の葬儀業界の時代を担う方々にとってのマニュアルですから。

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